友だちのうた-忘れ草つむ
「嘉麻のおくら短歌同好会」での短歌講座は今月で3年目に入りました。
今回のテーマは「友だちのうた」。
ゆうべの講座でご紹介した秀歌のうち、
次の二首は女性歌人が女ともだちをうたった作品です。
我よりも美しき友と連れだちて男群れ居る場所を通れり
栗木京子
それとなく紅き花みな友にゆづりそむきて泣きて忘れ草つむ
山川登美子
二首目の「友」は与謝野晶子のこと。
ご存じのように与謝野晶子と山川登美子とは「明星」での歌のライバルであり
与謝野鉄幹をめぐる恋のライバルでもありました。
けれども山川登美子は親の決めた縁談があり、結婚のため故郷に戻ります。
これはその時に詠まれたうたなのです。
「忘れ草」とはカンゾウやヤブカンゾウのことで
夏に百合に似ている やや黒みを帯びた黄色の花をつけます。
この花は一日花なので、英語名の day lily はそこからきているのでしょう。
忘れ草は万葉集にも詠われています。
この花を見たら憂いを忘れるという中国の言い伝えから
憂いや恋しいひとを忘れるために下着の紐につけたり垣根に植えたりしました。
おまじないとして使ったのでしょうね。
登美子は「忘れ草つむ」と詠んで鉄幹のことを諦める決意を表しています。
万葉集では、次のような歌があります。
忘れ草わが紐に付く時となく思ひわたれば生けりともなし
作者不詳
忘れ草わが下紐に着けたれど醜の醜草言(こと)にしありけり
大伴家持
一首目は
「憂いを忘れるというその草を着物の下紐につけました。
こんなにいつもいつもあの人のことを思い続けていたのでは
生きた心地がしないから」とうたっています。
二首目は坂上大嬢に再会した後に贈った歌で
「恋心を忘れるという忘れ草を下紐につけてみたけれど
このいまいましい草は名ばかりでした」と言っています。
忘れ草を「醜の醜草」(しこのしこくさ)と悪く言うことで
あなたを忘れられなかったと表現しているのですね。
いまの言葉でいうと、忘れ草をディスっています(=^∸^=)
ヤブカンゾウは7月から8月にかけて野原や田畑の畔に咲きます。
道端でもみられる植物ですが、忘れ草という別名を知っていると
その姿がこれまでとは違って見えるかもしれません。