長崎🌼乙女の寮のものがたり③
鳴滝の寮の仲間のみな歌詞をそらで歌いぬ「長崎の鐘」
キム・英子・ヨンジャ 『百年の祭祀』
長崎市の鳴滝町にあった寮には、
九州各県や遠くは四国、近畿から入学した学生が入っていましたが、
島原市や佐世保市、諫早市など長崎県内に自宅のある寮生たちもいました。
12月に入ると、冬休みになって寮が閉まる前に
クリスマス会がおこなわれます。
食堂を飾り付けて寸劇などの出しもので楽しむのですが、
会の最後にみんなで歌を歌いました。
それが「長崎の鐘」です。
この曲は作詩がサトウハチロー、作詩が古関裕而。
1949年7月に発売されたものです。
有名な曲なので
藤山一郎さんの歌声はそれまでテレビやラジオで
懐かしのメロディーとして聞いていたでしょうが
「こよなく晴れた青空を悲しと思うせつなさよ」で始まる歌詞は
よく知りませんでした。
ですから、初めてのクリスマス会の時、私はほとんど歌えませんでした。
でも、周りの多くの寮生たちは歌詞の掲示もないのに
歌詞をすべて知っていて最後まで歌っていました。
特に県内出身者にとっては
かなり以前の曲であるにも関わらずなじみがあるようでした。
私にとってはそれまでみんなで楽しく盛り上がっていたのに
「長崎の鐘」の斉唱が始まると
自分一人だけが違う場所に立っているような感覚に陥りました。
その後に調べてみると、
この曲は永井隆博士の著書「長崎の鐘」をモチーフにしていること、
それは1945年8月9日の長崎への原爆投下後のこと、
永井博士自身が被爆した時の状況と
被爆者の救援活動にあたったようすなどが書かれていることを知りました。
曲は歌詞もメロディーも美しく、原爆のことは直接には歌っていませんが
平和への祈りが強くこめられたものだったのです。
それを知って、長崎県内出身の寮生たちがこの曲を歌えるのは
単に長崎を舞台にした歌だからではなく
これまで原爆や平和について学校などで学ぶ中で
身についたものなのであろうと思いました。
歌っている彼女たちの表情は美しかったです。