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上坂あゆ美歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』

<2023年5月15日>


近年、SNSを背景に


若者を中心とした静かな短歌ブームといわれてきて


昨年はそうした若手の歌集が何冊も出ました。


歌壇以外でも話題になって


重版がかかる歌集も続出していますね。


『老人ホームで死ぬほどモテたい』もそのうちの1冊。


昨年2月の発行で、その前から重版がかかり、現在5刷だそうです。


作者とその作品を私は知らなくて、


あえて予備知識を持たないまま歌集を読んでみました。


読んでよかった、と思いました。


歌集には衝撃的なうた、印象深いうたが並びますが


それらと同じくらい心に残ったのがあとがきです。


歌集に「老人ホームで死ぬほどモテたい」というフレーズを含むうたは登場しません。


(8音・8音なので、1首の下句のような感じがするけれども)


このフレーズはあとがきに出てきます。


この歌集を読了した直後に私が思い出したのは


歌人・近藤芳美の


「短歌は呼び合いの詩形。


孤独な人間が『自分は今ここにいる』、どこかに届けと発する信号だ」


ということばです。



あとがきによると、作者は美大出身。


短歌結社や同人誌には拠っていないようです。








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