遠藤由季歌集『鳥語の文法』
鳥語にも文法があり複雑な声音に愛を告げる日あらむ
タイトルは冒頭の一首からとられているようです。
「かりん」の遠藤由季さんには「かりん」全国大会や忘年会、
拙歌集『百年の祭祀(チェサ)』の批評会でお会いしたことがあります。
2010年にかりん賞を受賞され、その年に第一歌集『アシンメトリー』を出版、
そしてその歌集で現代短歌新人賞を受賞なさいました。
今回上梓された歌集にはその2010年から2016年初夏までの三七五首が
収録されています。
現在、「かりん」での活動だけでなく、超結社の「ロクロクの会」や
短歌総合誌などでもご活躍中です。
あとがきからの次の言葉が帯文となっています。
「他者の道を歩くことはできず、自らの道を歩むほかにない現実を
投影してしまう詩形としての短歌。そのような短歌への親しみと畏れを、
本歌集を編むことによって改めて抱くことになった。」
( 短歌研究社 2017年7月1日発行 税別2,500円 )
北京語は赤や黄色の言語なり鼓膜と瞼ぱらんとひらく
セシウムとヨウ素抱き締め泣きながら海原へ身を投じゆく水
おばあさん帽子を被る人多し鳴かぬ小鳥を隠しいるらむ
もっと伸びる、とへちまが育つように言われふぅっと風のゆくえを追いぬ
強風に飛ぶ鴉たち鳴いているなきながらゆくものら鋭し
湖であれば恋などひとつくらい語りしものを手賀沼は沼
表面に種浮き立たせ真っ赤なる苺を模様にして可愛いか
あの雲にいま乗りこんでゆきたるは太り肉なりしわれの大伯母
一途なるこころは疎まれやすき世に耳朶をかすめて雪の消えたり
タッチ・アンド・ゴー次々と人間が改札機より旅立ちゆけり
黒髪は重たかりけむ相聞をいくつ捨てしか和泉式部は
短めの人生でいい一本の身体を秋の服に通せり