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畑彩子歌集『虫の神さま』

  • momosaran
  • 2017年10月8日
  • 読了時間: 2分

畑彩子さんの第三歌集『虫の神さま』が出版されました。

(ながらみ書房 2017年9月20日発行)

畑さんとは短歌結社「かりん」でごいっしょしています。

2013年に東京で開催した、拙歌集『百年の祭祀(チェサ)』の批評会は

「かりん」の皆さまのお力のおかげで行なえたものでした。

その折、畑さんも出欠返信のとりまとめをしてくださり、

たいへんお世話になりました。

今回の歌集は前歌集から11年ぶりということです。

     虫を飼う息子は神はいると言う「脱皮したとき神さまみたい」

この一首が歌集のタイトルとなったようです。

畑さんの作品は毎月「かりん」誌で拝読していて

まだ小さいお子さんを育てていらっしゃるのだなと思っていました。

あとがきによると、現在高校生と小学生の男の子が二人いらっっしゃるそうです。

   私(わたくし)は小さな国の小さな王で小さなものを支配している

ぐずぐずの長男を抱きぐにゃぐにゃの次男を背負い夏がはじまる

   大きめの妻を求めて争える二匹の蛙を子は攫いたり

   手をつなぎ帰ろう小さな花が咲き小さな人らが寄りそういえへ

   春ルルル 園児ら歌う窓辺には白き鳥来てさえずりはじむ

   朽ちかけの芙蓉に虫ら集いきて蜜を求めて殺し合いたり

   酔い潰れし曾祖父を乗せ黒馬は山一つ越えわが家につきぬ

   このミカン秋の味だね 子が言えば西日射す部屋秋の気配す

   ああシネマ・トキオがつぶれ雨の日は行く場所のない女が増える

   故郷はお茶とみかんの町ですと微笑みて言う町の名告げず

一首目と四首目は子育てと家事に追われる毎日の屈折を俯瞰して

童話のような雰囲気で詠っています。

私が支配する小さなものと詠む幼い子どもと

その幼子が関心を寄せる小さな虫たちの命の世界も

抑えた筆致で詠まれているのが印象的です。

七首目にうたわれた黒毛の馬は作者の曾祖父の愛馬であり

うちの裏山に葬られたそうです。

曾祖父と愛馬のつながりを通じて連綿と続いてきた家と血脈を感じさせます。

十首目の「故郷」は原子力発電所のある(あった)まちのようです。

幼子、または虫などの小さきものたちだけでなく

この歌や、あるいは臓器売買といった社会詠も少なくなく

作者は広く世界をみつめています。


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