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下村道子歌集『海山に聴く』


「かりん」の下村道子さんの『海山に聴く』が出版されました。

(ながらみ書房 2019年6月27日 2,500円+税)

2012年から2018年までの四〇六首が収録された第五歌集です。

下村さんは50年の長きにわたって短歌を続けていらっしゃいます。

落ち着いたブルーに白と銀色がアクセントになっている装幀も素敵です。

こちらの歌集から

印象に残ったうたをご紹介いたします。

 虫も熊も好む栗の実万葉の歌詠み人も子らも食みたり

 藁叩き自分の草履作りたり鼻緒に少し赤き布いれ

 ひこばえの若みどりのなか首細き白鷺は立つ皇女のごとく

 大洋に向きて広がる湾は抱く寄せくる波も引きゆく波も

一首目は山上憶良の次のうたを思わせます。

 瓜食めば 子ども思ほゆ 栗食めば まして思(しの)はゆ

 何処(いづく)より 来りしものそ 眼交(まなかひ)に

 もとな懸りて 安眠(やすい)し寝さぬ

 (万葉集 巻五 八〇二)

虫も熊もと詠うことで

万葉の時代からさらにさかのぼった遥かな時にも読者の思いは飛びます。

二首目。

歌集では一つ前に次のうたが並んでいます。

「配給の運動靴は二足のみクラスでくじ引き はずれ一生」

戦時中は運動靴も配給であったこと、

それもなかなかまわってこなかったことは

この一首によって知りました。

田んぼで稲を収穫した後、昔は藁をいろいろに利用してきた、

その藁は履き物にもなり、

しかも子どももその手で、自分自身の履き物をつくったのですね。

鼻緒に少しまぜた赤い布は

せめてもの楽しみであったのでしょう。

三首目。

白鷺の立ち姿を詠んだうたはたくさんありますが

この一首は上の句も美しく、特に結句の直喩に惹かれます。

四首目。

下の句の対句に人生をも思います。


 
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