浅岡博司歌集『百年の穂』
「かりん」の浅岡博司さんの第一歌集が上梓されました。
(短歌研究社 2020年6月15日発行 2,500円+税)
『百年の穂』の穂は筆の穂のことだそうです。
作者は日本画の画家で、個展を開き、絵画教室で指導もなさっています。
1987年から2020年までのうたを収めた本集には
絵に関する歌が多く、それらが魅力的です。
現在、短歌の表記については
新かなを用いる人と旧かなを使う人に分かれますが
ことばについては文語で詠むか口語を使うかは厳格には分かれておらず
一首の中に文語と口語が混じることも
なんらめずらしいことではありません。
『百年の穂』にもそうしたうたがあります。
けれども、こちらの歌集に限って申せば
文語と口語のMIXは稀なものです。
ほぼ全てのうたが文語のみで詠まれているのです。
端正なうたいぶりの中に深い思索を感じさせる一冊です。
冬に入り皿の絵具は凝りたり欲るひと色を温めむかな
お茶の水降りて下れり男坂<一途>といふは恥づかしきこと
日もすがら降りこめし雨にこもらへばきみが胸元の十字架(クルス)をはづす
花籠にさす月あかり障子開け障子あけして来るはどなたか
わたくしは習性に成る今宵またシャボンの泡を左手(ゆんで)より立て
海ちかき都井岬(とゐのみさき)にさらされぬ馬のたてがみわれの耳朶
水匙に掬ひし膠(にかは)に映りたりせいせいと立つ五月のみどり
ひとしきり箔貼り終へし美術室夕べきららに金粉の舞ふ
寝ぬるまへ膠(にかは)を水に浸し置き明日の仕事の嵩を量れり
こんもりと耐ふるかぎりの雪を載せ椿一樹は朱(あけ)をのぞかす