佐山加寿子歌集『鈴さやさやと』
出版されたばかりの『鈴さやさやと』は、
「かりん」の佐山加寿子さんの第一歌集です。
(本阿弥書店 2018年7月24日発行 2700円+税)
佐山さんとは数年前の「かりん」全国大会でたまたま隣のお席になったとき
一度だけお話ししたことがあります。
私が三年前から「かりん」誌で「前月号作品鑑賞」を執筆しているので
(複数の執筆担当者の一人として)
そのこともあり、佐山さんの作品はここ何年か誌上で読み続けてきました。
今回、歌集をまとめられて、
その世界をより広く、より深く感じられたことに喜びを感じております。
歌集名は、次のうたからとられています。
春浅き島の斎庭(ゆにわ)にわが舞ひの鈴さやさやととほりゆくなり
「島」とは新潟県の佐渡島のことです。
では、「斎庭」、「わが舞ひの鈴」とは?
馬場あき子先生による帯文に次のように書かれています。
―――ここから引用―――――
たいへんなひとが歌を詠みはじめた。
佐渡の大自然と世阿弥以来の能を残す佐渡の御能所牛尾神社の神子舞継承者が、
エディターとして活躍していた東京を捨てて故郷に帰り、新鮮に佐渡を発見し直し、
神子舞を継ぐ。そこに生きる喜びがあり、佐渡そのものを継ぐ意志が溢れている。
私たちはこの歌によって佐渡に魅せられるだろう。
多くの人に読んでもらいたい。
それによって作者の歌にも磨きがかかるし、より広い展開が期待できそうだ。
―――引用ここまで―――――
歌集名になった一首は、神子舞(みこまい)の場面なのです。
米川千嘉子さんの解説によると、
佐山さんのご実家である牛尾神社が建立されたのは8世紀(792年)。
さらに、著者あとがきによれば、
神楽の神子を継げるのは社家の女子のみなのだそうです。
さて、装幀も素敵なこの歌集、
最初のページを繰った日に前半を、翌日に後半を拝読しました。
付箋がたくさんつきました。
全部ご紹介するとかなりの数になるので
その一部をご紹介いたします。
バブル期にわれも遊びぬ万札をかかげタクシー止めてた上司
「このお嬢神子(みこ)になるべし」昔だれかに言はれたやうなと母はつぶやく
きさらぎの雪深き夜に吾を連れて秘儀なる占(うら)を見せし父ありき
地に眠る魂は起きよと大地踏む 天鈿女の舞ひしてわれは
罪なくて流れ着きたる木造船黒き船底に五人の軀(むくろ)
門外不出の雨乞ひの面守りきし佐渡の社(やしろ)にわれ育ちたり
帰りたし京(みやこ)恋しといふこゑのさくら木のした鬼は舞ひたり
抱けば卵が雛になること知らないで朱鷺はつれだち餌捕りに行く
もの馴れたをんなのような狸なりわれを無視して花にくつろぐ
北端が折り返し点バス降りて運転手ただ沖をながめる
朝露にさんだるの指濡らしつつきみのあさげの胡瓜をもぎぬ
結界を越えて入り来し奥山に羽団扇楓(はうちわかへで)の葉はをどり飛ぶ
漁船曳く精霊の舟消ゆるまで浜の女らの鉦鳴りやまず
最後から二首目(「結界のー」)は、
以前「かりん」誌の「前月号作品鑑賞」で私が言及したうたです。
歌集で再会して、嬉しい気持ちです。