菊池陽歌集『次は君だよ』
「かりん」の菊池陽さんの第一歌集が出版されました。
(ブイツーソリューション 2020年2月2日 2,020円+税)
おめでとう存じます。
帯文を馬場あき子先生が、
解説を米川千嘉子さんが書いておられます。
難聴の生徒はいつも目を見てる目で合図する次は君だよ
スカートの長い短いを注意するその日タリバンに少女撃たれぬ
白梅が咲く卒業式を贈るためボイラー室は白梅保育器
ボックスに被曝線量測らるる子は母を見て少し微笑む
妻と娘の会話に我も加えらる胎児の性別おとこと判り
どの写真にもエジプト女性の姿なし外には出ないこの文明や
一首目、授業についていこうとする難聴の生徒の真剣なまなざし。
その生徒と教師である作者とのアイコンタクト。
歌集のタイトルとなった一首です。
二首目、校則に定められたスカート丈をめぐる教師と女生徒たちの攻防。
その日常とタリバンに撃たれた少女の日常を対比しています。
社会詠を、遠いところで起こっているテレビの中のこととして終わらせずに
詠んでいます。
三首目、卒業式は3月におこなわれるところが多いでしょう。
私の住む福岡では梅は1月から2月に開花しますが
作者の住む東北では
卒業式の頃、まだ梅は咲いていないんですね。
けれども、卒業の門出に白梅の花と香りを添えて送り出したいという
先生がたのまごころが伝わる一首です。
「白梅保育器」にほんのりしたユーモアも漂います。
四首目は東日本大震災の折のうた。
母親の不安と、それを感じて微笑んでみせる子。
その両方の心持ちが伝わってきて、
何度読んでも鼻の奥がツンとなるうたです。
五首目、これまでは奥さんと娘さんとの話に入れなかったのですね。
娘さんの懐妊によってようやく入れてもらえるようになったという、
これもほのかなおかしみをたたえた一首。
六首目、この歌集が出たのは、
日本での新型コロナウイルスによる事態が深刻になる前ですが
外出を自粛しなければならない今読んでみると
自由な外出が難しい生活を日常として送っている人々がいることに
改めて気づかされます。