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奥山恵歌集『窓辺のふくろう』

  • momosaran
  • 2017年10月24日
  • 読了時間: 3分

「かりん」の奥山恵さんの第二歌集『窓辺のふくろう』が出版されました。

第一歌集から19年後の上梓だということです。

同じく「かりん」の松村由利子さんが解説を書いていらっしゃいます。

その文章は次のように始まります。

――――ここから引用――――

 奥山恵さんは、二〇一〇年から千葉県柏市で

児童書専門店「ハックルベリーブックス」を営んでいる。

この歌集には、書店経営に携わる今と、都立高校教諭として勤めていたころ、

両方の歌が収められている。

世界は軋み続けており、どちらの日々も容易ではない。

けれども、閉塞感に満ちた中で、

奥山さんは何と誠実に詠みつづけてきたことだろう。

――――引用ここまで――――

歌集のタイトルは、奥山さんが飼っているアフリカオオコノハズクのふーちゃん

のことです。ふーちゃんを詠んだ作品も幾首もあります。

ふーちゃんは奥山さんといっしょにお店にいて

書店に来る子ども達から奥山さんは「ふーちゃんのママ」と呼ばれるのだとか。

裏の林で拾いて来たる枝ならべBOOKの文字を看板となす

   午後四時のモーニングコールもう起きてもう二学期が終わりそうだよ

   学校からキャバクラに行く十九歳と揺られいるのみ夜更けの電車

   一ルピーのために寄り来て宙返りくるりくるりと少女は見せる

   やがて知る 登戸の「動物慰霊碑」の動物に人間も含まれしこと

   教員をやめて本屋を始めしわれを「人生二毛作」なる記事に眺める

   バナナマフィンのほのかな味に綻びる脳ありて書評一本書き出す

           クリスマス

   霜月より包んで包んだ本たちがひらかれているだろう今宵は

一首目(裏の林でー)は、本は木からできているということが

意識に浮かび上がってきます。こんな看板の書店ならすぐにでも行ってみたい。

二首目(午後四時のー)は定時制高校の先生としてのうた。

下の句が叫びのようにきこえます。

三首目(学校からー)は、夜に働きながら定時制高校へ通う生徒。

働かなければ学校へも通えないという事情であれば、止めることもできない。

無力感に包まれていることが伝わってきます。

四首目(一ルピーのー)は、三句以降だけ読めば楽しげな雰囲気です。

それだけに、一、二句目が迫ってきます。

五首目(やがて知るー)は、かつて登戸にあった陸軍研究所を詠んでいます。

六首目(教員をー)は、自身のことについて書かれた記事の

「人生二毛作」というタイトルに、どこか他人事のような感じも受け、

教員時代とは何であったのかを考えているのではないでしょうか。

七首目(バナナマフィンのー)は共感して読みました。

私の場合、原稿執筆を始めさせてくれるのはチョコレート。

その香りと甘みに支えられてペンをもつことができます。

八首目(霜月にー)は子どもの本のお店を仕事としている作者ならではのうた。

おとなが子ども達へのクリスマスプレゼントとして選んだ絵本や本を

ラッピングペーパーで何冊も包装したのでしょう。

購入したおとな達が子どもの目にふれないところに秘めもっていた本は

ついにクリスマスの今夜、包装がとかれ、子ども達の指が表紙をめくります。

いくつもの部屋でのその光景を思い描いて、作者も幸福を感じているのです。

とても素敵なクリスマスだと思います。


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