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間千都子歌集『結びなおして』

  • momosaran
  • 2017年11月15日
  • 読了時間: 3分

「ポトナム」の間千都子(あいだ・ちづこ)さんの第一歌集が出版されました。

(春吉書房 2017年8月15日発行 税別2,000円)

歌集のタイトルは次の一首からとられています。

   わが内の糸がぷつりと切れた日はやれやれとまた結びなおして

間さんと初めてお目にかかったのは今年2月のことでした。

宗像大社短歌大会の今年度第1回の実行委員会。

明るく温かくやわらかな笑顔が印象に残りました。

そして今月5日の大会当日も運営スタッフとしてごいっしょいたしました。

   波立てぬように暮らすも知恵として少しくあける助手席の窓

   ワンピースのファスナーをあげ春色に包まれているわれの憂鬱

   保護者なるわれにはちっとも従わぬ助手席の母オーライと言う

   ここからは流れに任せてゆきますと秋空を背に船頭さんは

   この家にだあれもいない幸せを女優のようにうれしいと抱く

まだ鬼の棲まぬ乙女の空色のやわらかそうな春のスカーフ

   冬の世の君のコートが木枯らしの町の空気を持ち帰りたり

   そのむかし金の卵と呼ばれたる人達のいてころころ笑いき

   人間でいるたのしさのその一つ内緒話を耳がよろこぶ

   柳橋市場に今日より解禁のつくしの文字にはねる素魚(しろうお)

一首目(波立てぬー)は、実際の空気を入れ替えて

自分のため息もクルマの外に逃がすことで

重苦しい雰囲気を変えようとする場面と読みました。

「家刀自」として日々奮闘する作者の、ある日の横顔です。

二首目(ワンピースのー)は結句が効いています。

春色の服を着てもなお晴れることのない心。

三首目(保護者なるー)も結句が良いですね。

いくつになっても母にとって子どもは自分のほうが導くもの。

四首目(ここからはー)は川下りの場面でしょうか。

船頭さんの言葉に人生を重ねているように思えます。

折しも頃は秋。

人生の秋も感じさせます。

五首目(この家にー)はいつも家族に囲まれている家刀自ならではの喜び。

嬉しいときはうれしいと、楽しい時はたのしいと口に出して言うと

もっと嬉しさ、楽しさを感じられます。

作者もそのひとときの嬉しさを堪能しているのでしょう。

六首目(まだ鬼のー)は、「まだ」というところが怖いですね。

「鬼」という強烈な一語がスカーフのやさしい描写によって引き立てられています。

二首目(ワンピースのー)とも響き合っています。

七首目(冬の夜のー)は、君ではなくコートが、としてクローズアップしています。

八首目(そのむかしー)は、昔話のような語りかたです。

実際は、中学や高校を卒業した多くの十代が都会へ集団就職でやってきたのは

昭和の高度成長期のことです。

その辛さ淋しさは言わず、結句を「ころころ笑いき」としたところに

彼らの若さとけなげさ、そしてその裏にあるものを浮かび上がらせます。

「ころころ」が「卵」と呼応しているようでもあります。

九首目(人間でー)は、ドキッとする一首。

十首目(柳橋市場にー)は、博多の台所と呼ばれる柳橋連合市場と

博多に春を告げると言われる素魚(しろうお)を詠んでいます。

素魚が身を曲げるようすを「つ」「く」「し」(筑紫)の文字にみたてた、楽しい一首です。


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