「水城」第268号
- momosaran
- 2017年11月27日
- 読了時間: 2分
コスモス短歌会福岡支部の「水城」。
11月10日に第268号が発行されました。
選管の人見守るなか投票す患者食堂に車椅子にて
池野京子
虫の見る真夏の庭のジャングルよ木々にゴーヤの蔦絡みつき
大西晶子
塩水に沈めてほうと息をつく浅利をやがて地獄へ落とす
大野英子
子が住めばわが住むごとき明るさにサンダル履きでゆく神楽坂
藤野早苗
にせ札の百五十万円胸に抱き友はひとりで指定の場所へ
増田順子
一首目(選管のー)は上の句だけ読むと通常の投票所の風景に思えますが
下の句で初めてそれが病院内に設けられた投票所なのだとわかります。
自らの思いを一票に込める強い意志が感じられます。
二首目(虫の見るー)は小さな生きものに視点を移して詠んだうたです。
人間からみると抜いても抜いても雑草が勢いよく伸びる真夏の庭は厄介なもの。
その庭は虫から見ればジャングルだろうと詠われると少し愉快な気持ちになります。
ゴーヤの蔦が南国の気分をさらに高めています。
三首目(塩水にー)は結句が効いています。
浅利貝は料理の下準備として塩抜きのためにしばらく塩水につけます。
塩水を張ったボウルの中の浅利を見ているときは、
なんだか飼っている生き物を観察しているような気分でもあります。
それを、煮立ったお湯や熱いフライパンへ入れるときは、少し胸が痛む。
その場面をぱっきりと「地獄へ落とす」としたところが、むしろ気持ちいい一首です。
四首目(子が住めばー)は印象深いうたです。
「神楽坂」という地名を生かした一首です。
これまで何の関わりもなかった遠いまちだけど
縁あって子どもがそのまちに住むようになり
親の〈われ〉も時折そのまちを訪れます。
全然知らない場所であっても、
子どもが日々ここで生活しているとなればいろいろなことに関心を持つし
親近感も覚えます。
まるで自分のまちのように。
自分の日常のような気分を「サンダル履き」で表していて
その場所が非日常をイメージさせる地名の(たぶん東京の)「神楽坂」であるところ。
わがまちのような気分を「気安さ」でなく「明るさ」と表してあるのが
「神楽坂」の音とも響き合っていると思います。
五首目(にせ札のー)は、オレオレ詐欺の電話を受けた友人が
警察のおとり捜査に協力して犯人に会いに行く場面。
友人からその武勇伝を聞いた<われ>も、そして読者も
胸がドキドキしてしまいます。
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