浦部みどり歌集『匂いむらさき』
- momosaran
- 2018年4月6日
- 読了時間: 2分
長くうたを詠んでこられた浦部みどりさんの初めての歌集が上梓されました。
(角川書店 2018年3月20日発行)
短歌を始められたのは高校生の時だそうです。
タイトルは次の一首からとられています。
老父母の保護者となりてゆくわれか匂いむらさきは花絶えず咲く
浦部さんとは「かりんZONTAG会」(福岡支部)でごいっしょしています。
「かりん」に入会されたのは5年ほど前。
いつも素敵に和服を着こなしていらっしゃいます。
ある時の月詠で、浦部さんの水仙のうたをとてもいいなあーと思い、
それから毎月作品を楽しみにするようになりました。
庭の植物を詠んだおうたにひかれますが
それだけではなく、風雅で丁寧な暮らしがうかがえる作品も秀逸です。
そうした暮らしが回想ではなく現在形であることに感嘆します。
ですから、今回の歌集出版に私も少し関わることができたことを嬉しく思っています。
その過程で、これまでは知らなかった「かりん」入会以前の作品を読めました。
そこには長い人生の中で起こる喜びやさまざまな葛藤や別れがあり
そうした作品を読むことで
お庭のうたや丁寧な暮らしのうたがいっそう輝きを増すように感じます。
森林浴をしたかのような読後感の歌集。
ぜひ多くのかたに読んでいただきたく思います。
叫びたき時もあらんか声もたぬ魚は時おり身をくねらする
笑いつつ見つめ合いおり草の実が髪にも服にもつきし姿を
春蒔きの種子のカタログ取り寄せて美しき夢われは買いたし
貸借の合わぬ試算表に時ながくかかりて次第に頬ほてりくる
退院の間近くなりて家を恋う夫と一つの桃を分け合う
七草汁はわが家流なる味噌仕立て「早早(はよはよ)あがれ」と煮えばなをつぐ
通るたび傾き立てる電柱に不安抱けどやがて忘れぬ
盆栽の年間手入れ書かれあり遺言と思いときどきに読む
真田紐きっちり結び納めたり夏に眺めし白磁の壺を
石榴の実太りにふとり細枝に重たすぎるよ己を知らず
精霊に作り供える「あちゃら漬」口がおぼえし母からの味
梅・辣韭漬けて杏のジャム煮上げ六月せわしわが食歳時記
放生会きたら着物は「セル」にすると祖母の言葉の浮かぶ参道
庭の山椒たっぷり摘みきて木の芽和え今宵厨に春の香は充つ
庭の梅ひらくと見れば目白(メジロ)来ぬ連絡網でもあるかのごとく
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