米川千嘉子歌集『牡丹の伯母』
「かりん」の米川千嘉子さんの第九歌集が出版されました。
(砂子屋書房 2018年9月8日発行 3,000円+税)
歌集名は「ぼうたんのをば」とふりがながついています。
米川さんのこれまでの作品、
たとえば社会詠は
<戦争鑑賞人>のうたなどから大きな示唆を受けました。
今回の歌集にも、次のようなうたがあります。
見つからぬ子を捜すため潜水士となりたるひとの閖上の海
子に見せてならないものは死にあらず性ならずこのうす笑ひの答弁
社会詠だけでなく、大きなる時間を感じさせる歌集です。
2015年から2018年までの作品ということですが
そこに流れているのは悲しみや憤りも含んだ豊かな時間で
読む者にその広さを感じさせます。
これからも近くに置いて
折にふれて読み返したい歌集です。
ご紹介したいうたがたくさんありますが
その中から幾首かを記します。
雷も聞こえぬ母の辺にひらく花菖蒲の紺父のごとしも
堤防決壊思はざりけり銃に弾込むるごと川に雨降りゐしを
元興寺明日香瓦をぬらす雨牡丹の花のうちがはに入る
われと夫ただ書く夜に息子来て一夜眠れば闇やはらかし
ああ死者はわれの横がほ見てをらむバス停わきの白椿咲く