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仲間節子歌集『シンギングサンド』

「かりん」の仲間節子さんの第一歌集が上梓されました。

(現代短歌社 2020年9月20日発行 2,500円+税)

馬場あき子先生が帯文を、米川千嘉子さんが解説を書いておられます。

仲間さんは沖縄県の宮古島のご出身。

沖縄から行くにはまだパスポートが必要だった時代に

東京の大学で国文学を学び、

卒業後に沖縄県に戻って現在も県内にお住まいです。

私は5年ほど前から「かりん」誌で

「前月号作品鑑賞」の執筆を担当しているのですが

そちらで何度か仲間さんの作品について書いたことがあります。

次は、「かりん」2016年8月号の「前月号作品鑑賞」に書いた文章です。

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「クスケー」と子供のくしゃみに呪文かくくしゃみとともに魂出ぬように

 仲間節子

古くは魂は亡くなった時だけでなく生きた人間から出ていくことがあると信じられていたそうで、

『徒然草』でも子どもがくしゃみをすると周りの大人が呪文を唱える風習があったことがわかる。

「クスケ―」は沖縄・奄美地方のことば。

この習俗が今も続いているのだ。

習俗を歌に残していくのも大事なことのように思う。

  「かりん」2016年8月号 「前月号作品鑑賞」(執筆・キム・英子・ヨンジャ)

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この印象的だったうたも今回の歌集に収録されていて嬉しく存じましたが

歌集には他にも作者が子ども時代を過ごした宮古島の民俗が豊かに詠われています。

そして、東京での大学生時代、沖縄返還への思いと行動。

沖縄での戦争のこと。

学校勤務時代の生徒たちのこと。

今も基地の残る沖縄のこと。

沖縄の自然のこと。

歌集タイトルの「シンギングサンド」は鳴き砂。

歌集の最後に「シンギングサンド」と題した一連が置かれています。

 大潮にシンギングサンドは奏でたり泡瀬干潟はそのたまゆらを

 鳴き砂も埋め立てられて一切の泡瀬干潟の声の止むとき

米川さんの解説によると

作者の住む沖縄市の泡瀬干潟では反対の声にも関わらず干拓事業がおこなわれており

きわめて多様な生物が生息する浅海域の埋め立てが進められているといいます。

あとがきには

「短歌を始めて、二十年が経ちました。

古希を記念して歌集にしたわけではありませんが、

今がわたしの出版の時期だと思い、決意しました。」とあります。

仲間節子さんの、心揺さぶる第一歌集。

ご上梓を心よりお祝い申し上げます。

富貴なる暮らし願うと高膳の針突(はじち)を母は娘(こ)の手に差しぬ

愛しい子(かなすっふぁ)、愛しい子(かなすっふぁ)と呼ばれつつわれは宮古の島に育ちし

父方の先祖を継ぎし童名(やらびな)は「カニメガ」なりし幼き吾の

野ボタンを髪に挿したる母ありき畑仕事の土にまみれて

たてがみを揺らせる馬にまたがりて祖母(おおはは)歌いし「トーガニー綾語(あやぐ)」

                            ※宮古民謡

草かぶり白装束して神さぶる女(うない)の列にわが母もあり

沖縄語言えば間諜とみなされて射殺されたり島の村びと

ナングスクに集団就職見送ると白き煙を焚きたる親ら

そびえたつ議事堂は朝霧のなか 捨て石に二度なりし沖縄

軍票のB円、ドル、日本円通貨はいつまた変わるか知れず

とどろけるオスプレイ二機見上げればオリオン座光る闇にまぎるる

畑中にぷっと屁を出し笑う子よ蒲公英の綿毛見つけて走る

「クスケー」と子供のくしゃみに呪文かくくしゃみとともに魂出ぬように

爆音に見上げる空に戦闘機なくて音のみ残れる真昼

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