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『ジャーナリスト与謝野晶子』

<2023年1月7日>


まず、このタイトルに、えっ!と驚かれるかたもあると思います。


与謝野晶子といえば『みだれ髪』で恋愛を情熱的にうたった大歌人。


一般的にはそうしたイメージですものね。


でも、晶子は歌人としてだけでなく


「源氏物語」の現代語訳、童話や小説、


文化学院での教育、百貨店の広告の仕事など


幅広い仕事を膨大にこなしています。


そして、主にヨーロッパから帰国してから


精力的に取り組んだのが新聞や雑誌への寄稿です。


女子の教育やスペイン風邪に関する防疫、


選挙権のことなど、旺盛に発言しています。


そうした晶子の評論活動を緻密に追ったのが


松村由利子さんの『ジャーナリスト与謝野晶子』です。


(短歌研究社 2022年9月14日 2,500円+税)


フランスのパリに滞在中(1912年)、


新聞のインタビューを受けた晶子は


最上の職業は新聞記者、と答えています。


晶子の論考や思想の源には何があったのか。


松村さんの筆を通して


私たちは晶子の先見性に驚かされ、


そこに現代に通じる問題を見ます。


まさに、長く新聞記者として活躍され、


かつ歌人である松村さんならではの渾身の書といえるでしょう。


感銘を受けたところはいくつもありますが、


たとえば、これまで私は晶子が


幼い7人の子を置いてヨーロッパにいる夫のもとに旅立ったことについて


よく理解できていませんでした。


いくら夫が恋しいとはいえ


子どもたちはみな幼くて


一番下の子はまだ1歳になったばかり。


当時、女性ひとりでシベリヤ経由のヨーロッパへ旅することじたいが


勇気がいることだったでしょうが、


それ以上に幼い子たちを残して遠い異国に何か月も行くのは


なななか大きな決心が必要だったように思われます。


小さな子ってすぐに熱を出したりすること、ありますしね。


そこのところの心情がこれまでは今ひとつ謎だったのですが


この書物を拝読して


自分だったらどうするかは別にして


ああ、そうだったんだなあと思えました。


常人には及ばぬ膨大な仕事を成し遂げた晶子は


あるコンプレックスを抱いていたといいます。


でもそこにとどまらず


自らを奮い立たせて


「ジャーナリスト」となった晶子。


とっても平凡な言い方ですが、


そして、めっちゃ今さらなのですが、


晶子すごい!と言いたくなります。


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