光野律子歌集『ミントコンディション』
<2024年1月27日>
2021年に第41回かりん賞を受賞された光野律子さんの第1歌集です。
(角川書店 2023年10月25日発行 2,600円+税)
解説を米川千嘉子さんが書いておられます。
羽根をモチーフとして
銀色とペパーミントグリーンを使った装幀も素敵です。
ちなみに、タイトルの『ミントコンディション』は
ペパーミントグリーンのミントとは違う意味をもっています。
主に古物取引の場で使われる用語で、
「新品同様」という意味だそうです。
このことばには30年以上画廊に勤めた作者の来歴と
コロナ禍により画廊が閉鎖されたために
求職活動をおこなうことになった心情が凝縮されているようです。
第1章はかりん賞を受賞した「半獣身(パン)」を核としていて
第2章からいったん2007年にさかのぼって
そこから現在(2022年)までの作品が並んでいます。
西洋の美術や音楽、文学、キリスト教がバックボーンとしてあり、
歌集の特色をなすそうした作品に多くのかたが言及されることと存じます。
作者が長く勤めた画廊のあった銀座を詠んだうたにもひかれました。
そちらも読みどころのひとつかと思います。
このブログではそれ以外の、ご家族を詠んだうたもご紹介します。
光野さん、第1歌集のご上梓、おめでとう存じます✨
サイレントピアノにわが弾くバロックの縷縷たる嘆き 夫は眠りて
革命とう名のスナックの扉開き小鉢並べる痩せ男見ゆ
亡き祖母の愛でにし小さき古雛(ふるひいな)子の無きわれの書棚にありて
乗車券をチケツと言いおりおおははは移民ばかりの村に暮らせば
朝まだきミサに聴きたり地獄とは絶対的な孤独なるらし
母は少し無口になりぬウイグルの留学生が帰国してのち
神無月打たれてたことに気づきたり打たれ強いと友に言われて
競売のバックヤードで耳にする不思議な言葉「目垢がつく」と
ひりひりと育て難き子でありけりと二十歳でわれを産みし母言う
食卓のたまさか夫の席に座せば吾が本棚のおどろおどろし
祖父遺せる肖像切手は数百のプミポン国王若かりし日の
地雷系女子の落としたテディベアをキッチンカーが轢き逃げしたり
たまかぎる夕べふたりきり高層のリビングに聞くジャワの沈香
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