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森川多佳子歌集『そこへゆくまで』

<2023年7月14日>


「かりん」の森川多佳子さんの第2歌集が出版されました。


( 2023年5月25日 角川文化振興財団 2,600円+税 )


栞を藤島秀憲さん、大森靜佳さん、米川千嘉子さんが、


帯文を馬場あき子先生が書いておられます。


馬場先生の帯文には


”知と情の葛藤、その折合の苦さの中に今日の著者の追求がある。


「暗い時には悲観しつつ先を諦めず」(あとがき)


この思考こそ著者の強さだ。


多岐にわたる題材の豊かさ、


人間の絆の大切を思う著者の足跡をみせる第二歌集。”


とあります。


拝読して、特にお父さまと弟さんを詠んだ作品にひかれました。


中でもお母さまとともに弟さんをたずねる「頭を低くせよ」の一連は


初出の折に胸を揺さぶられました。


今回歌集で読んでもその時と同じように胸を打たれます。






腕くめば腕あたたかし途中から夢と知りつつ亡き父の腕

                                (P70)  






冬芒ふつくらほほけて陽に泛かび亡父のたましひ今日はおだやか

                                 (P81)    






「椰子の実」のチャイムに滲む冬夕陽死にゆく父の耳に歌ひし

                                 (P82)  






空調が壊れたら閉店と聞きしより中華「蘭らん」しげしげ通ふ

                                 (P86)   






なんで客が来ないんでせうと訊かれたりさくさくかろき春巻き食めば

                                  (P87)    






八重山の八潮のひかりひとひ浴びからだからつぽ眠りに落ちる

                                  (P107)  






十年前はいちばんしあはせだつたころ知らずに人を踏んでゐたころ

                                   (P112)     






健常なら何してゐるとは思はざりこの弟がわれのおとうと

                                  (P128)






うちの子は甲Aではない「美帆」という名に生きし子をとりもどす母は

                                  (P173)  






知つてる声だうれしい声だ おとうとに笑ひこみ上げわれらは泣きぬ

                                  (P227)   






分らぬか何か分かるか 六十年おとうとの顔見つつ問ひきつ

                                  (P228)  












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