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紺のチョゴリ

  • momosaran
  • 2022年3月6日
  • 読了時間: 3分

<2022年3月6日>


母は2019年に亡くなりました。


その半年後からコロナ禍の世の中となって


身内の者とも顔を合わせることが難しくなったなか、


昨年の秋、感染状況が落ち着いていた時期に


姉が母の形見を持ってきてくれました。


それは、紺色のベルベットの生地であつらえたチマ・チョゴリ。


(ちなみに、チマ・チョゴリは韓半島の女性の伝統衣装。


チマは西洋のドレスのような長いスカート、チョゴリは短めの上衣をさします。


韓国では伝統衣装は韓服(ハンボク)と呼びますが


在日同胞の間では、


いえ、少なくとも私のまわりではハンボクと呼ぶことはありませんでした。


チマ・チョゴリを指して単にチョゴリと言っていました。


この文章では、チョゴリとはチマ・チョゴリのことをさしています)


この紺色のチョゴリは


兄の婚礼の際に母があつらえて身につけたものです。


姉によると、これを私に渡すようにと母が言っていたそうです。


ベルベットの生地、と書きましたが


考えてみるとこれは少し不思議なことです。


ベルベットは本来韓国には無かった西洋のものです。


それを伝統衣装に使っているのです。


もっとも、当時はそのことを不思議とは思っていませんでした。


私が自分でチョゴリをあつらえるようになってから


韓国・釜山の鎮市場(チンシジャン)の韓服専門店を訪れた際、


母の紺色のチョゴリ姿がずっと記憶にあったので


同じようなチョゴリを作りたいと思いました。


ところが店主のかたから


ベルベットの韓服なんてない、と即座に言われてしまったのです。


え?


でも、母は着ていたけれど・・・。


それでもないと言われれば引き下がるよりほかなく、


水色の絹のチョゴリをオーダーしました。


その時から私の胸に小さな疑問として宿ったベルベットのチョゴリ。


その疑問は2000年代になってから博多で観た


韓服のミニ展覧会で解決しました。


韓服の流行の変遷が展示されていて


戦後(韓国戦争後)、


韓国では西洋の生地や技術を取り入れた韓服が作られるようになったとあったのです。


そこにはレースでできたチョゴリが展示されていました。


そうえいば、私が18歳の時に初めてまとったチョゴリも総レースのものでした。


こうした生地のチョゴリは確かに韓国でも着られていたけれど


鎮市場のくだんの店主は伝統的な韓服にこだわりがあったので


ベルベットの韓服なんてないといったのでしょう。


(水色の絹地でチョゴリをつくる折も


 伝統的な韓服には裾や袖に刺繡は入れない、


 刺繡を入れられるのは襟元とオッコルム(上衣のひも)だけと言われ


 それにしたがったのでした。


 袖や裾に刺繍のはいった韓服はポピュラーなものですが


 その店主は伝統様式を守る気持ちが強かったのでしょう)


母の形見の紺色のチョゴリは


生地のほかにも変わったところがありました。


上衣の結びひも(=オッコルム。長く垂らすもので装飾のひとつともいえる)


が無いのです。


その代わりに内側にボタンが付いていて


その外側のところにブローチを飾るデザインです。


韓国では数十年前からでしょうか、


生活韓服といって


現代的に着やすく動きやすくアレンジしたチョゴリがよく着られていますが


母のチョゴリはそれを先取りしたものでした。


紺色の光沢のあるベルベットのチョゴリの胸元で


キラキラと光る(イミテーションの)ダイヤモンドのブローチ。


うーん、おしゃれ。


私は母より10センチ以上身長が高いので


袖や裾が私には短いのですが


着こなしの工夫なりリフォームなりをして


いつかコロナ禍が終わったら


韓国関連の冬のパーティーには


母の形見のこのチョゴリを身にまといたい、そう思っています。





 
 
 

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