帽子のうた②-予告なく来る死
予告なく来る死もあらむ明日のために香を焚く思ひに洗ふ坑帽
山本詞(やまもとつぐる)
昨日に続いて、今月の「嘉麻のおくら短歌同好会」短歌講座で取り上げたうたを
ご紹介します。
山本詞は1930(昭和5)年に田川の炭住で生まれ、
その後古河目尾抗に移った父親について飯塚市内の炭住に暮らします。
旧制鞍手中学校卒業後、家計のために父親と同じ炭抗夫になりました。
結核の療養所に入所した時期に短歌を始め、すぐに頭角をあらわします。
1958(昭和33)年、「地底の原野」五十首で
「短歌研究」第一回新人賞二席に入選します。
冒頭のうたは受賞作の中の一首です。
山本詞は鞍手中学校在学中の1945(昭和20)年3月に
海軍飛行予科練性に志願し、前原航空隊に入隊します。
同年8月、太平洋戦争終結により帰郷し、翌年卒業します。
歌人の松井義弘さんは著書『黒い谷間の青春 山本詞の人間と文学』の中で
この作品には明らかに甲飛予科練のことが遠いこだまとなって響いていると
述べています。
坑内の仕事はまさに命懸け。
「予告なく来る死もあらむ」とうたった山本詞は
1962(昭和32)年、坑内での炭車事故により亡くなりました。
32歳の誕生日を迎えたばかりでした。
結婚しようとしていた六年越しの恋人がいました。