川島結佳子歌集『感傷ストーブ』
「かりん」の川島結佳子さんの第一歌集が上梓されました。
(短歌研究社 2019年7月25日発行 2,000円(税別))
歌集の冒頭にタイトルと同名の一連があり、
その一連の最後に置かれているのが次の一首です。
「芸人になりたい」と言ったラジオネーム感傷ストーブは今何してる
歌集には栞がついており、
佐佐木定綱さん、岡崎裕美子さん、渡辺松男さんが書いていらっしゃいます。
この栞も拝読しましたが
その前にまずは歌集を最後まで読みました。
川島さんが「かりん」(歌林の会)に入会なさったのは5年前の2014年。
翌年には短歌研究新人賞で次席となり
翌々年に第36回かりん賞を受賞されました。
「かりん」に入会すると、最初はⅢ欄に作品が載ります。
本欄以外のⅠ~Ⅲ欄から選ばれる「かりん集」や「若月集」に
掲載される場合もあります。
私に川島さんのお名前を印象づけたのは
入会されてまだ間もない頃ではなかったかと思うのですが
次のうたが注目されたときです。
「お前はもう、死んでいる」とか言いながらあなたと食べる胡桃のゆべし
少年漫画誌は読んでこなかった私も
「お前はもう、死んでいる」が
「北斗の拳」のセリフであることは知っていました。
この一首も、同じく一連「感傷ストーブ」の中に収められています。
歌集『感傷ストーブ』はおもしろい。
もちろん、
ただ面白おかしいという意味ではありません。
折々にその作品に触れていたかたが歌集にまとめられたものを読むことで、
これまでよりもその特性がさらにぐんと濃く感じられて
その美質がどーんと迫ってくる。
そうした時は気持ちのたかぶりを感じるのですが
私にとっての『感傷ストーブ』は
その気持ちのたかぶりの楽しさを感じさせてくれた一冊です。
川島結佳子さん、第一歌集のご上梓、おめでとうございます。
報告書の蟻のようなる読点を潰して潰して潰して潰す
百円のサボテン枯れる否 枯らす私は砂漠よりも砂漠で
ホームレスは消されて錆びた金属がアートですよと置かれる公園
左右みて密かに一冊抜く君はきっと呼吸をしていないだろう
致死量を超える甘さのマカロンを貴女はリスのように食べてる
君の見る走馬燈の中にわたくしの一発ギャグがあれば良いのだ
会議のため淹れてる紅茶終わったら排水口へ流す紅茶を
医師の指示守れば良しとおみくじの小吉にありほんとうに普通
初雪が降ったのだろう掌は上のままティラノサウルス 骨に
おはじきをたくさんくれる祖母のようお釣りを返す蕎麦の券売機
ゲルニカの馬の目に画鋲が刺さってる区の掲示板十字路にあり
カウンター席から見える玉ねぎを炒める際のあめ色見本
忙しないものですね死は自転車を立ち漕ぎでゆく喪服の人よ