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江國梓歌集『桜の庭に猫をあつめて』


「かりん」の江國梓さんの第二歌集が上梓されました。

(角川書店 2019年7月25日発行 2000円+税)

歌集名はこの一首よりとられています。

 いつの日か我が家も空き家となるのだらう桜の庭に猫をあつめて

こちら以外にも折々に猫が詠まれているこちらの歌集の帯文は

馬場あき子先生が書いておられますので、ご紹介いたします。

「才気の人、江國梓さんの根底には、

 新知識や事物への飽くなき探求心がある。

 だからその視野も歌材も多面的だ。

 この歌集は何と中年にして新しくみつけた大人の恋からはじまり、

 双方の家族ぐるみで結婚するというドラマが、

 俗ともならずいきいきと展開する。

 くらしの中に珍しい虫や生物が彩りを添えているのは、

 新夫妻の趣味の世界か。

 いまも面白く、これからも楽しみだ。」

次に、拝読して印象的だったおうたを挙げます。

 金銭を食べ続けねば果ててしまふカネゴンけふも泣きながら食ぶ

 延命の水を吸わせし薔薇いちりん触れれば煙りのやうに散りたり

 間歇泉のごとく吹き上ぐる悋気あり生前のあなたの歌集を閉じる

 恋のため神父を辞めし人のこと震へるやうに聴く午後の聖堂

 水入らずの水なることを思ふときそつと抜け出し揚げる春巻き

 夏くれば裏磐梯へ帰るだらう人のなき世もアサギマダラは

 亡き先妻呼び出す電話たまにあり「もうゐません」と棒読みにいふ

 小さきころ魔法と思ひし母の手を祈るかたちに組んでやりたり

 越冬の天道虫と遊びをりベトナムで消息絶えたる友よ

ここに挙げた中では、

虫の歌は六首目のアサギマダラと九首目の天道虫の二首ですが

歌集にはさまざまな虫が登場して

しかもそれは自然の中で観察するものだけではなく

馬場先生が帯文に書かれているように

どうやらおうちのなかでの楽しみであるらしく

それが一つの特徴となっています。 

五首目(「水入らずの...」)は

かりん誌で拝読した記憶があります。

その時から印象に残っていました。

七首目(「亡き先妻...」)は、「棒読み」がポイントでしょうね。

感情を入れずに棒読みのように答えるのは

そうしなければ感情が波立ってしまうからでしょうか。

八首目(「小さき頃…」)のお母さまへの挽歌も

かりん誌で拝読して胸に残りました。

担当している「前月号作品鑑賞」で取り上げたので

特に記憶に残っている一首です。


 
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