100歳のパソコンのうた
「かりん」誌で「前月号作品鑑賞」の執筆を担当して、
ちょうど5年がたちます。
担当するのは年に3回です。
一度に十数首を取り上げます。
仮に十首として単純計算すると
これまで少なくとも百五十首以上について書いたことになります。
本日の「明るい気分になったうた」は、その中の一首です。
夏のおわりの電話に話す百歳で最新のパソコン買いし男と
小林三千子
これは「かりん」2016年11月号に載ったうたです。
今では「人生100年時代」というフレーズをしょっちゅう聞きますが
このことばはもともと、2016年10月下旬に発売された
『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』
という書物で用いられたものだそうです。
「かりん」の歌稿は掲載月の2か月前に送りますから
このうたが詠まれた時点では「人生100年時代」なるフレーズは
まだ世の中に広まっていなかったことになります。
でも、今読み返すと
まさにそのフレーズを表したような一首です。
このうたには、電話の相手の活力に舌を巻きながらも
少し呆れているような感じも受けます。
なにしろ、「最新のパソコン」なのです。
これが「パソコン」だったら
百歳にして初めてパソコンを始めようとしているわけで
それはそれですごいことだと思うのですが
「最新のパソコン」となると
電話の相手は現在もパソコンを使っていて
それを最新のものに買い換えたということなのでしょう。
アナログな人間の私はほんとうに脱帽してしまいます。
どんどんバージョンアップしてゆくIT機器についてゆけることに。
そして、電話の相手は百歳にして、
これからその機器を使いこなしていこうと未来を見ているのです。
自分自身をバージョンアップしようというのでしょう。
その活力に、作者は少し気おされているのかもしれません。
百歳のひとを翁ではなく「男」と表しています。