top of page

そりやぁあなた、のうた

4月最後のブログは

一週間ぶりの「明るい気分になったうた」を。

 疲労つもりて引出ししヘルペスなりといふ八十年生きれば そりやぁあなた

 齋藤 史

ヘルペスだから、病を得たうたです。

それを読んで明るい気分になったなどと言うのは

不謹慎ととられるかもしれません。

これは、病と老いのうたです。

自らの病と老いを詠ったうたは多く、

そこには悲しみや嘆きや諦めや不安が入っています。

きっとそれが当然の気持ちだと思います。

でも、このうたにはそれが感じられない。

カラッとしている。

潔いというか。

相手はたぶん医師でしょう。

受診の場面で医師から

疲れがつもってヘルペスが出たんですよ、と説明されて

下の句がその受け答えになっています。

80年も生きていれば、疲労もつもりますわよ、と。

自分よりもずっと年下の医師を諭しているようでもあり、

ちょっと呆れているようでもあります。

第四句が10音、結句が6音の破調ですが

そんなに気にならない。

大胆な口語と省略がきいていて

誰をも納得させる力をもっています。

そして、「八十年生きれば」で

読者は作者の人生に思いをいたします。

この一首は、

病と老いのうたというより

人生をうたったうたですね。

苦しみ多い人生をさらりと

そりやぁあなた、と言っているところが

気持ちを晴れさせてくれるのです。

最新記事
アーカイブ
bottom of page