辻裕弘歌集『この夢がさめたら』
「かりん」の辻裕弘さんの第一歌集が出版されました。
( 短歌研究社 2020年9月15日発行 2,700円+税 )
裕弘さんというお名前はご法名です。
歌集名は次の一首から取られたものと思われます。
この夢がさめたらどこにゐるのだらうヒトなる確証なきは楽しき
解説を米川千嘉子さんが、
帯文を馬場あき子先生が書いておられます。
辻さんはさまざまな経歴をお持ちです。
そのことを馬場先生の帯文を引用することでご紹介いたします。
「著者は高野山で得度した女性の学僧である。
諸方面でカウンセラーとして活躍する一方、
従軍看護婦であった母の足跡を満州に辿って戦争を問い、
またチェ・ゲバラに感動してキューバに飛ぶなど、
著者の面目躍如としている。
しかし最終章には飲酒運転者の車による息子さんの事故死がうたわれ、
突如、生身の母の貌が浮かび上がる。
多彩な経歴の中にこの章をもつことが、
出家者としての人生を重厚に見つめ直させることであろう。
馬場あき子」
私は辻裕弘さんとは「かりん」誌で作品を拝読したことがあるのみですが
私自身、一人息子を育てた身として
最後の章は平常心で読むことができませんでした。
動悸が激しくなりました。
作者はあとがきで
「日々のさまざまの思いを、
とりわけ息子の急逝という大きすぎる試練のときを、
短歌を詠むことに支えられて過ごしてきました。」
と記していらっしゃいます。
「箱庭」に曼荼羅あらはるそののちにがんの消えたるステージⅣのひと
生きる意味さみしきまなこで問ひてくる小学生に「ある」とこたへる
朝会にぱたんと倒るる児を起こす朝は食べたの昨夜(ゆふべ)は食べたの
明日学校かはるんだつてねこれも内緒ね この母子とはに守らるるべし